映画の度重なる上映中止でもう5ヶ月くらいションボリ丸なワタクシですが、満を辞してというか、つい先日より映画館への観客制限が緩和。中止になっていた売れ線の大作映画も細々と公開を開始し始めました。
そんな中、コロナの騒動が無ければもっとバンバン宣伝を打っていたであろう、アノ超大作が公開されました。
『ダークナイト』シリーズ、『インセプション』や『インターステラー』など、公開されるごとに異色すぎる内容で注目を集めるクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』。
ざっくりあらすじは以下の通りでございます。
満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発した。罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、仲間を救うため身代わりとなって捕らえられてしまう。
昏睡状態から目覚めた男は、フェイと名乗る男から“あるミッション”を命じられる。それは、未来からやってきた敵と戦い、世界を救うというものだった。
※「THE RIVER」より引用
※いつもなら「これでもか!」ってくらいビッチリあらすじを書いてる映画.comさんですらあらすじの要約が難しかったのか、まさかの僅か2言しかあらすじが書かれていなかったので、今回は最近人気のエンタメ情報サイト「THE RIVER」さんよりあらすじを引用致しました。
書いてても「なんのこっちゃねん」って感じのプロローグなので、公開後は例の如く、「なんじゃこりゃ!」「ワケ分からん!」の声が多数。まあ、そりゃそうだってところですが、僕ちゃんはと〜っても楽しめたのです。
とはいえ、TwitterなりSNSを覗いてみるとハナから理解していない人が多数。
「TENET」初回ヤバすぎて何も分からなかったけど近くにいたギャルのお姉さんが可愛かった日記(※微ネタバレ) pic.twitter.com/NhBnZF4tCY
— かがの字 (@o5o5kdk) September 21, 2020
はたまた、芸能人のGACKTさんに至っては「理解できなくて2回観賞した」とか言ってたり、良い意味でも悪い意味でも話題に。
僕からしてみれば、GACKTがMALICE MIZERを脱退した理由の方が理解できないんですが。
とはいえ、この映画は抑えておくべきところがいくつかあるんじゃないか、と思いまして、これから観る人の為にいくつかのポイントで解説が出来ればなあ、と思う次第です。
とゆ〜ことで、今日はこんな記事です。
※ネタバレはないです。
そもそも「時間の逆行」とは?
この映画で一番抑えて置かなければいけない「時間の逆行」という概念。
あらすじを一見しただけだと、「ハハ〜ん、タイムトラベル物なんだな〜」と思うに違いないですが、それは合っているとも言え、はたまた間違っているとも言える。
タイムトラベルといえば、やっぱり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ですが、デロリアンは指定した未来や過去に行ける。もう一個、タイムトラベル物といえば『ターミネーター』ですが、過去には行けるが未来にはいけないという、それぞれの映画における基本設定があります。
※この基本設定、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は除外してます。
が、この『TENET テネット』は過去にあったいくつものタイムトラベル物の概念とは逸脱した、前述の「時間の逆行」がテーマ。
つまり、どういうことかというと、オープニングの後、ちょっと経った頃に登場する女性・バーバラ博士のご説明台詞にもある「時間は前に進むけど、逆方向にも進むのよ」ということで、即ち“通常の時間の流れ”を正としたら、その逆…つまり巻き戻しのような時間の流れもある、というワケ。
『TENET テネット』の中では「これは未来人の技術なんだ」「理解しようとしないで感じて」と、「とりあえず世界観を受け入れとけ」的な、まるで『ウォーキング・デッド』をシーズン5くらいから観るかのような説明の乏しさで進行するので、この基本概念を理解出来ていないと「????」ってなるのは当然。
とはいえ「ところでタイムマシンはどこにあるの?」って全く関係のない疑問を持つのはあまりにも安直なので、「時間逆行の技術を各人が使っているんだな」と思っておけば、それなりに物語への理解…というより紐解きは簡単なので、絶対にこの点は抑えておきましょう。
オセロの裏「ニール」の存在
トランプ大統領になってから、いわゆるポリティカル・コレクトネスト、即ち“人種的平等”をテーマにした映画が多くなって久しく、ディズニーの映画とかなんかすごい気にしていますもんね。
それもあってか、この『TENET テネット』はノーラン監督の映画としては初めての黒人が主役の映画。アンチポリコレの方は「それがどうした!」と思ってしまう部分でしょう。僕しかり。
が、おそらくこの映画、その“ポリコレ”のデリケートさを上手いこと利用しているっちゅうワケです。
さて、ここからは僕自身が観賞したことによる独自解釈なので、間違ってたらすいません…って感じですが、登場人物という点でちょっとこの人種的部分にあるテーマを掘り下げていきましょう。
主人公はデンゼル・ワシントンの息子ジョンが演じる“名も無き男(Protagonist)”、序盤から登場するロバート・パティンソン(次回のバットマン!)演じる謎多き相棒は“ニール”。物語はこの2人を中心に進むのですが、この2人、今時によくある黒人と白人のコンビ。失礼な言い方をすれば、肌色込みで「オセロ」のような両極端な存在。
映画の序盤で“名も無き男”が「時間の逆行」という概念にスゴく吃驚していましたが、それは“名も無き男”がこれまでずっと順行で生活していたからそりゃ当然なワケです。
しかし、一方のニールはどうでしょう。「時間の逆行」の概念にさしてビックリもせず、「まあこんなもんよ」と余裕の素知らぬ顔でした。そもそも、このニールは“名も無き男”よりも、もっと言えば他の誰よりも、どこから来たのかさえ分からない身の上の人物。ここで、前述の「オセロ」として考えてみたら、おのずとどこから来たか見えてくるんじゃないでしょうか。
あんまり言うとネタバレになっちゃうからここまでにしときますけど。
何故、人工呼吸器付けてるの?
これは割と分かりやすい部分ではあるのですが、「時間の逆行」をしている間は人工呼吸器を付けなければいけない、というルールがこの『TENET テネット』の世界観ではあるらしい。
『インターステラー』で物理学者のキップ・ソーンに協力を仰いだノーラン監督のことだから、物理的にどうのこうの…というサイエンスなウンチク故の設定なんだとは思いますが、『TENET テネット』においては人工呼吸器の存在はかなり重要で、この点を踏まえて置きながら画面の隅から隅までを観ると、「あれ、コイツ…もしや逆行してるのでは?」ということがなんとな〜く見えてくる。
これが最も顕著なのが、中盤における大アクション・カーチェイスシーンなのですが、「なんだこりゃ」と思っているうちに、前述の「あれ、もしや…」という発想に至ってくるはずなので、この点もしっかりと抑えておきましょう。
音楽も実は重要?
おそらくこの映画、音楽もかなり重要。
とは言え、理由は先の人工呼吸器と似ているのですが。
この映画のサントラを担当しているのは、昨年チャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーがリリースした『This Is America』のプロデューサーであるルドウィグ・ゴランソン。
昨年度のアカデミー賞でも『ブラック・パンサー』の音楽により作曲賞を受賞した精鋭なのですが、本作で彼が手掛けた曲のほとんどはシンセサイザーのシーケンスループで作り上げたような、ループ構成が中心の曲ばかり。
分かりやすいとこだと、オスロ空港のシーンで流れ始める下記の曲「FREEPORT」が分かりやすい。
ノーラン監督と言えば、作風の特徴として音響面における無限音階の多様が良く知られているのですが、今回音響面では意外にも鳴りを潜めていて、なんと音楽の要素の一つとして無限音階を用いるようにしたというワケでしょう。
※『ダークナイト』に登場する“バットポッド”のエンジン音などは有名ですよね。
当然ながらシーケンスループというものは、シンセサイザーの鍵盤上で言うところの無限音階の概念そのものなのですが、このBGMが実はヒントになっているワケです。観賞した人でピンときた方もいるでしょうが、「時間の逆行」が発生している時には、必ず前述のようなループ系の音楽が流れていたのです。
「ここには何かしらの“逆行”が発生してまっせ」というような、つまり記号的にサントラが使われているということ。
とは言え、僕もパッと見観賞であまり自身がないのですが、「思い返してみれば…」と思うと結構該当するような気がする。少なくとも後半はそうだったので、これをヒントに用いたであろう、ノーラン監督のアイディアには脱帽です。
なので、僕的には前半をとってもとっても見返したいのですね。
※本人的に思惑は違うかもしれないけど、音楽がこの機能を持ってしまったに違いない!
まとめ:もう一度確認したい場面の数々
色々ポイントでまとめましたが、難解には違いないので映像的なカタルシスさえ求めていなければ、観賞には注意が必要です。ただ、脚本としては凝りに凝っており、分厚いサスペンス小説を言葉尻すべてまで映像化したかのような情報量の数々。これはスゴイとしか言いようがありません。
ノーラン監督と言えば前作の『ダンケルク』や過去作『インセプション』における“時間の交錯”のアイディアも凄かったですが、今回はそれを超える衝撃。「時間」を主だったテーマとして用いることが多いノーラン監督の中でも凝りに凝った内容の映画に違いありません。
たぶん、僕自身も見逃している部分が何かしらあるに違いない。それを確認したいから、もう一度確かめたい。
いや、「もう一度」とは言わず何度でも。
こんな複雑怪奇な内容に2億ドル出費したワーナー・ブラザーズはスゴイ会社だな、と思います。
いや、本当に。
BANANA SCOOTER’Sの用心棒兼コンポーザー。元民放テレビ局AD。自称・関東イチ映画とテクノ・ミュージックを愛する男。ダイエット中。またサブカルチャーへの造詣もかなりのもんです。趣味はディスクユニオンでポンコツCDを購入すること、どうでも良いことに対しての長い作文作成。
故にそんなブログを書くと思います。
しょうもない内容の記事が多いですが、本人曰く「至って真面目」に“しょうもない記事”を書いているとのことです。
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