「おばあちゃーん!もう限界だよ!」
山梨県千倉市。夏。快晴。
富士山が朝日を背に悠々と姿を現した。
「おばあちゃーん!ゴメン!あッ!」
小学生の登校の時間だ。子供たちが笑いながら家を通り過ぎていく。
なぜだろうか、なんら変わらない。いつもと同じ、と思っていたが。
界隈に「おばあちゃん!」と声を上げる凛々しい筋肉の持ち主は、陰嚢をそっと持ち上げ、スペルマの溜まったコンドームをゴミ箱に捨てると、先ほどまで高々と勃起していたペニスをタオルで覆い、また声をかけた。
「おばあ…ちゃん…?」
この声は町一番の怪力高校生、足球岩夫の声だ。岩夫が先ほどまでの、威勢のいい声を止めると、冷や汗を掻きながら声を向けた相手にソッと囁いた。
「おばあちゃん…聞こえる…?いっくんだよ…?僕いっくんだよ…?」
声を向けている相手、その女性は白目を剥きよだれを垂らし、硬直していた。
山脈のようにシワを刻んでいる肌、溶けたチョコレートのように不規則な形状をした乳輪、白髪の陰毛。しかし、顔はしっかりと化粧がされ、ふと八千草薫の顔を想像してしまうような、老体としてはまさに美人といえる造形であった。
岩夫は彼女をギュっと抱きしめ、乾ききった唇で相手に一度キスをした。
「おばあちゃん?まだ分からないのかい!?そんなの酷いよ!?いっくんもう一回チューするよ!チューするよ!」
そう言うと再度キスをした。それでもまだ動かない。唇を離すと岩夫は何がなんだかわからない様子で、周りをキョロキョロし始めた。岩夫は動かない彼女に少しばかりのオーガズムを感じ、彼のペニスを再度勃起させてしまう。すると彼女がビクと動いた。
「んぅ…」
「おばあちゃん!僕だよ!いっくんだよ!いっくんだよ!」
彼女は白目を剥いていた目を拭うと、岩夫の顔を見てウットリとした顔をした。
「もう…いっくん激しすぎるのよ…」
「そんなぁ、褒めているのかい?おばあちゃん?」
「もう…アナタいっつも、ヤンチャのボウヤなんだから」
彼女の名前は、吉本いちご。八十一歳。
昨年、会社の会長職で、大金持ちであった夫を突然の心臓発作で亡くし、今は余生を1人生きている。世田谷の高級住宅街の一角に構えていた御殿も、既に夫の後に売り払い、現在の自宅は一戸建ての長屋となった。二人の間に子供はおらず、いちごは仕事人であった夫を献身的に支えること、それが昨年までの生きがいであったといえる。
彼女の趣味は津軽三味線と写経。しかし、一人となった今、それらをただただひっそりと没頭するしかないのだ。
「んもー、お世辞ばっかりだなあ、おばあちゃんは!ん、あ?ほら?おばあちゃんのせいで僕の“こっち”こんなになっちゃったよ?ほら?ほら?ぎゃははは」
岩夫はいちごの顔を両手で捕まえ、半分の力で勃つペニスを、笑いながらいちごの顔に押し付けた。
「うひゃあ、やめなさい!もう!うひゃあ!」
「ほら!おばあちゃんのせいだよ!窒息させてやるぅ!おばあちゃんを窒息させてやるぅ!」
そもそも岩夫といちご、二人の出会いは偶然ともいえる。いちごの夫の葬式である。それが幸か不幸か、いつの間にか現在のような肉体関係を結ぶようになった。
年齢をおうごとに仕事一筋になっていったいちごの夫。
やがて夜の営みもなくなり、二人の生活の晩年はもはや仮面夫婦であった。
通常、性欲は歳を重ねると欲求はなくなるが、異常なまでのセックスレスはいちごの精神を不安定にさせるほどで、夫婦生活の中での“性”はただ作業的な処理のようであった。
岩夫と出会ってからはセックスそのものへの楽しみを見つけ、あの頃のような作業的な処理ではなく、自分の欲の捌け口がセックスそのものにあるという事を強く認識し始め、その性欲はまるで十代の若者のそれとまさに同じであった。
「うぼぉ…ごぼ…ごぼぉ…いっくん…わたし、死ぬぅ!死んじゃう!」
「おばあちゃんのせいだよお!おばあちゃんがいけないんだよお!」
いちごがブルっと顔を震わせた。同時にいちごが岩夫の腰元をバンバンと強く叩いた。
「死んじゃうよぅ!わたし死んじゃう!死んじゃう!」
「僕のおばあちゃんへの気持ちなんだよお!だからおばあちゃんがいけないんだよお!いけないんだよお!」
「おばあちゃん!まだまだだよお!そうだろお!?」
「…。」
「おばあちゃん?」
岩夫が我に返ったように、ハッと目を見開いた。いちごは力が抜けたように腰元から手を引いた。するとバタンと倒れ、しわしわの乳首が凛と上を向いた。
「おばあちゃん…?おばあちゃん…?」
「おばあちゃんが死んでる!」
完
BANANA SCOOTER’Sの用心棒兼コンポーザー。元民放テレビ局AD。自称・関東イチ映画とテクノ・ミュージックを愛する男。ダイエット中。またサブカルチャーへの造詣もかなりのもんです。趣味はディスクユニオンでポンコツCDを購入すること、どうでも良いことに対しての長い作文作成。
故にそんなブログを書くと思います。
しょうもない内容の記事が多いですが、本人曰く「至って真面目」に“しょうもない記事”を書いているとのことです。
コメント