【ウンチク】観る前に知っておこう!『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の知識【レビュー】

コラム

さて、人生をナメている猛禽類系サルの松任谷なめ蔵くんが以前紹介した、クエンティン・タランティーノ監督の新作映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』がついに公開されました。

原題となる英文「Once upon a time」は、日本語でいう「昔々…」と直訳もされる、おとぎ話やファンタジー系の映画などでおなじみの導入句。

タランティーノ自身が「ハリウッド近隣で幼少期を過ごした生粋のLAボーイの映画オタク」という事実は常々ご本人が公言しているお話。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、かつて栄華を誇った映画都市“ハリウッド”の勢いが減退傾向の中で、業界自体が半ば崩壊寸前となっていた1969年が舞台。

本気で意味のなかった米軍によるベトナム戦争介入もちょうど同時期とあって、アメリカが混乱に満ち始め、映画産業自体も当時はそんな世相をもろに反映した映画が乱立し始めていました。もちろんタランティーノ自身も、そんなカオスに満ちたハリウッドを間近で目撃した1人。

かねてより60年代終盤当時のハリウッドを舞台にした映画を作りたがっていたという、タランティーノ悲願の傑作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を早速観てきたので、人生の何の為にもならないウンチクと共に、極力ネタバレなしで余すところなく紹介いたします。

ストーリー

テレビ俳優として人気のピークを過ぎ、映画スターへの転身を目指すリック・ダルトンと、リックを支える付き人でスタントマンのクリス・ブース。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに神経をすり減らすリックと、対照的にいつも自分らしさを失わないクリフだったが、2人は固い友情で結ばれていた。そんなある日、リックの暮らす家の隣に、時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と、その妻で新進女優のシャロン・テートが引っ越してくる。今まさに光り輝いているポランスキー夫妻を目の当たりにしたリックは、自分も俳優として再び輝くため、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演することを決意する。やがて1969年8月9日、彼らの人生を巻き込み映画史を塗り替える事件が発生する。

※あらすじは「映画.com」より転載

映画オタク「タランティーノ」

さて、映画オタクのタランティーノ。自身の監督作品の中で、様々な形で過去の映画に向けたパクり…いやオマージュを捧げていたのは映画ファンにとって常識のように知られたお話。ユーモアとイマジネーションに溢れた劇中劇の露見や、もろパクリの引用の数々も特徴の一つです。

特に、日本が舞台なことでも知られる『キル・ビル』シリーズにおいては、至極無茶苦茶な設定の元、様々なパクり…いやオマージュをモンタージュの如く登場させ、全世界の映画ファンの度肝を抜きました。十二分に満ちた映画愛への露骨なアピールは他監督作品の追随を許さず、それ故に映画好きの心に残るズシッと重く感じるエンタメ作品を届けてきました。

今回の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、前述の『キル・ビル』を凌駕するかのような、「本当にタランティーノは監督辞めるつもりなのでは…※1」と本気で心配になってしまうほど、パクり…いやオマージュとリスペクトの連べ打ち。

※1…当のタランティーノ本人は「この作品がヒットして批評受けも良かったら監督を辞めようと思っているんだ!」とあらゆる媒体で公言している。辞めないでよタラちゃん!

そもそもそんなオマージュの数々もあってか、虚構の代表といえる映画のストーリー展開において、他にない妙な説得力があるのもタランティーノ作品の特徴とも言えます。本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はまさにそれ(This is it)な作品。今までの作品で矢継ぎ早に披露してきたマカロニ・ウエスタン(後述)や任侠ヤクザモノ、カンフー映画などの知識で固められ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はある意味かなり重厚な作品になっています。

「ボクが観たい映画はこんな映画!」と、映画ファンなら誰しもが妄想した作品スタイルこそが、まさにタランティーノの映画全部に共通する、まさにタランティーノの映画作りのテーマそのものとも言えるのです。

知っておいた方が良い「前知識」

ブラッド・ピットが主演した2009年の『イングロリアス・バスターズ』以降、「現実の事件」と「虚構の融合」という、かなりエッジの効いた作品スタイルにギアチェンジしたタランティーノ。さながらそれは「タランティーノからみた歴史」とも言え、前述の『イングロリアス・バスターズ』においては史実を完全に無…いや、意図的に見逃して、「ヒ●ラーが●●に●されちゃう※2」という衝撃の展開が注目を集めました。

※2…まさか●トラーの顔が●きとん●ゃうなんて!

とはいえ、現実世界とのリンクも大切にしているのは言うまでもない。

上記の『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ 繋がれざる者』、続く『ヘイトフル・エイトは、比較的ハッキリとした分かりやすいストーリーでありましたが、本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、タランティーノ本人の思い入れもあってか、『キル・ビル』シリーズばり※3に情報量がハンパではない。

※3…『キル・ビル』は過去作品へのオマージュがあまりにも多すぎた為、日本公開の際に劇場で発売されたパンフレットには、全部でおよそ30ページのうち6ページほどを割いてオマージュ作品を丁寧に解説した、Wikipediaのような記事が載っていた。しかも「Vol.1」「Vol.2」それぞれで。え?「なんでそんなこと知っての?」だって?何故なら僕は、当時観に行った時にこのパンフレットを2冊とも購入していたからなのだ!

今回の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、日本に馴染みの薄いアメリカ国内の悲劇の歴史・映画史を扱っていることにプラスして、かなりマニアックなネタがバンバン出てくるので、ある程度の知識も必要です。

そもそも、以下で紹介するキーワードを予備知識として、最低限でも入れておかないと、マジで置いてきぼりを食らう可能性があります。

ということで、鑑賞の際のタメになるハズのウンチクを5つ紹介。

60’s”アメリカン・ニューシネマ”

前述の通り、1969年当時のハリウッドは、映画産業自体が著しく減退傾向にありました。

無論これは当時の大問題となっていた、米国によるベトナム戦争介入への社会不安が露骨に漂っていたのが起因とされ、いわゆるヒッピーの登場なども当時の陰鬱な風潮により生まれたというワケなのです。そんなこともあってか、当時のハリウッドのオーソドックスな大作陣は軒並み大ゴケ。世相と映画制作会社の思惑がニアミスすらしていなかったのも原因だとは思いますが。

そもそも、なんでハリウッドが大枚を叩いた映画が、よりによって軒並み大ゴケしていたのか。それは当時のハリウッド映画が、ハッピーエンドで終わる映画ばかりであったことが原因とされます。当時のアメリカでは当時の急激な不景気も手伝ってライトなカウンターカルチャーが確率し、映画業界も当然その雰囲気に乗っ取らざるを得なかったのです。つまり、その当時の映画ファンは、ハッピーエンドで終わる映画を必要としていなかったのです。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を鑑賞するにあたって60年代後期のハリウッドの傾向をググってみたのですが、基本的にヒットしていたのは「自由を求めて奮闘する」だったり、「鮮烈・苛烈なバイオレンス描写」という表現だったり、極端に言うと「主人公が死ぬ」もしくは「退廃的な終幕」という内容のモノの方が受けていたのです。

当時大ヒットしていた『イージー・ライダー』なんかは特に顕著で、前述で挙げたポイントを余すところなく”モロに”描写し、それもあってか今においては燦然たる輝きを誇っています。

現代においては「自由に向けてもがく」なんて映画は乱立して久しいとも言えますが、この当時においてそれらはほぼタブーとされていた時代でもあったのです。映画の中の登場人物はヒーローであるべきという描写が当たり前ではなくなったのが、この60年代後半という時代でした。


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この陰鬱なラストに代表される展開が、いわゆる「アメリカン・ニューシネマ」の特徴ともされ、教科書的な映画ではない内容の不道徳な映画がたくさん登場しました。中には血みどろの映画もあったりで、暴力を毛嫌いする保守的な人権団体などへのトラブルもあらゆる形で発生していたと言います。

当然ながら「映画は芸術だから、自由に作って良いだろう!」とばかりの骨のある映画人がこの時期に大挙して集まり、それらの監督・スタッフたちが制作する映画たちを「アメリカン・ニューシネマ」という呼称で呼び、親しまれることになりました。有名どころであれば、ディカプリオの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のマーティン・スコセッシ監督も、このムーヴメントで名が売れた監督だったりもします。


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シャロン・テート殺害事件

さて、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で扱われるのは、この「シャロン・テート殺害事件」。「なんで発生したのか?」を調べると、実はかなり胸糞悪い。

首謀者はカルト集団「マンソン・ファミリー」の首領チャールズ・マンソン。マンソンは幼少期から少年期にかけてのその素行の悪さが成人しても続き、事件当時においても当時30代初頭ながら、当時の時点で人生の半分を更生施設で過ごしていたというかなりヤバイ人物。

元々自己顕示欲の塊だったらしいマンソンは、浮浪者寸前のヒッピーたちをLSDと乱交パーティを餌に集めて、自らはそのリーダー…いや、教祖として一同をまとめました。マンソンへの絶対的な服従心の元、フリーセックスと薬物の常習を主にしたこの複数人は、いつしか「マンソン・ファミリー」と云われる集合体となったのです。集団内で交わされていた会話はイエス・キリストの復活や世界の崩壊を意味するハルマゲドンなどを主とした、明らかに上記を逸した内容でした。

また当のマンソンは、あらゆることに関して過大妄想っぷりがひどかった、ナチュラルにサイコ野郎だったのです。中でもすごいのが、ザ・ビートルズの名曲『Helter Skelter(ヘルタースケルター:直訳で「しっちゃかめっちゃか」)』を「この歌が“戦争を起こせ”と言っている」と解釈し、集団の洗脳にも用いていたという点。ポール・マッカートニーの代表曲として知られ、「滑り台」という割と単純なテーマ※4な『ヘルタースケルター』を、かなり無理矢理宗教的観点を結びつけたという点はマンソンの異常性を語るポイントの一つでもあります。

※4…これ本当なので、知らない人は歌詞の和訳をググってみよう。


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さて、そんなマンソン。

ファミリーもそれなりに集まり地盤が固まり始めた頃、何故か思いつきでミュージシャンデビューを目指し始めたのです。マンソンは謎のコミュ力を発揮し、当時大ヒットしていたザ・ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンと仲良しになりました。そして、デニス・ウィルソンに仲介され、中堅音楽プロデューサーのテリー・メルチャーを紹介してもらったマンソン。「デビューなんてちょろかったんや!」とぬか喜びのマンソンでしたが、テリー・メルチャーはマンソンのミュージシャンデビューの手助けを拒否。一応、ちゃんと親切に優しくお断りをしたらしい。

挙句の果てに、マンソンをテリーに紹介した当のデニス・ウィルソンは、マンソンが作詞作曲をした曲『Never Learn Not to Love(愛は決して学べない)』を寸分くらいしか変わらないアレンジで、ザ・ビーチ・ボーイズの新アルバムの一曲としてちゃっかり発表。

この2つの件によってマンソンは大激怒。テリー・メルチャーとデニス・ウィルソンに対して逆恨みをしてしまったのです。

さて、ここまでシャロンの名前に触れませんでしたが、実は理由があります。

そもそもこの殺人事件、なんと人違い・場所間違えがキッカケなのです。

テリー・メルチャーがお引越しで自宅を引き払った際に、その直後に転居してきたのがシャロン・テートと旦那のロマン・ポランスキー。マンソンはそんなことつゆ知らず、一方的な憎悪からテリー・メルチャーではなくシャロンが住む自宅に部下(ファミリーの3人)を向かわせ、当のシャロンと数人の友人たちを惨殺。結果として「シャロン・テート殺害事件」として歴史に残るに至りました。

ね?ヤバイでしょう?

不憫でしょう?

当然、新進気鋭の女優の死ともあってメディアでは大々的に報道をされ、ハリウッドの映画産業自体に大きな爪痕を残すことになりました。

ロマン・ポランスキー

映画の中では紅一点の存在であるシャロン・テートをマーゴット・ロビーが実に見事な演技で演じているのですが、そもそも「シャロン・テートって誰だ?」なんて人も多いのではないでしょうか?そこでシャロン・テートと併せて紹介したいのが、現在でも活躍する映画監督ロマン・ポランスキー。実はこの殺人事件当時現役の夫婦で、シャロンはロマンの子供を妊娠していたのです。つまりロマン・ポランスキー自身も、事実上の被害者の一人なのです。


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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の舞台となる1969年ですが、当時のロマン・ポランスキーというと、ホラー映画の名作として名高い『ローズマリーの赤ちゃん』を前年1968年に世界的に大ヒットさせ、一躍ハリウッドを代表する存在となっていたいわば時代の寵児。後の作品でも分かる通り、映画づくりの才能は確かなモノで、この悲劇的な事件を乗り越えて数々の名作(『チャイナタウン』『ナインスゲート』『戦場のピアニスト』など)を発表し続けました。

現在のポランスキー監督

ロマン・ポランスキーは元々ポーランド出身のユダヤ人で、第二次世界大戦時においてはドイツ帝国によるユダヤ人排除政策による弾圧により、あのアウシュヴィッツ収容所で幼少期を過ごしたという、幼い頃においてもかなり壮絶な半生を送っていた人物。成人してポーランド国内で俳優としてデビューした少し後、監督としてもデビュー。針で刺されるかの如く真に迫るサスペンス映画で頭角を表し、ヨーロッパ中で話題に。そのまま、すぐさまハリウッドに声をかけられた人なのです。

そこで生まれたのがハリウッドデビュー作『ローズマリーの赤ちゃん』。悪魔崇拝者に囲まれる神経症の女性が主題となった『ローズマリーの赤ちゃん』は、前述のアメリカン・ニューシネマの風潮にも乗っ取り大ヒットとなりました。

シャロンとポランスキーの出会いは、ポランスキーが『ローズマリーの赤ちゃん』の前年1967年に公開したブラック・コメディ『吸血鬼』がキッカケ。ロマン・ポランスキーの圧倒的な才能にシャロンが惚れ込み、2人はすぐさま交際に発展し、あっという間に結婚。結婚時には時を同じくして『ローズマリーの赤ちゃん』も大ヒット。

映画界に確かな実績を残し、尚且つ超絶美人のシャロン・テートもゲットしたこともあり、分かりやすくアメリカン・ドリームを体現した超人として名を知らしめました。

ポランスキーにとって最悪だったが、この事件当時、次作として予定していたウィリアム・シェイムスピア原作の戯曲の映画化企画『マクベス』の制作準備をしていたことです。事件当時もロケハンをかねた英国ロンドンへの長期滞在もあり、ハリウッドに構えていた自宅を妻のシャロン・テートに任せていた為に、妻を凄惨極まる事件の渦中に巻き込んでしまったのです。繰り返しますが、「人違いの殺人」であるという予期せぬ事実で。

事件後のロマン・ポランスキーは最愛の妻を失った事実と、さらに過激なマスコミによる根拠のない報道により極度の神経衰弱に。それが完全に尾を引き、先に挙げた『マクベス』は原作戯曲は趣向を思い切り変え血みどろの復讐劇として生まれ変わり、後の作品でも『マクベス』に追随するかの如く、人間の不条理や過激な暴力描写などを主とした内容となっていくのでした。

当然ロマン・ポランスキーは事件の強いショックはその後も長く癒えず、それから10年後には(間違いなく事件がキッカケとなり)少女への強姦という重犯罪を犯し、裁判で懲役刑を命じられるなど、一転して犯罪者として世間を騒がせてしまいます。

挙げ句の果てに、ポランスキーは警察に逮捕された後、ポーランド国籍である事実を利用し米国の法律の穴を奇跡的に抜けてヨーロッパへ国外逃亡。

なんと抜群の知名度を誇る著名人でありながら、国際的な犯罪者となってしまったのです。

何れにしても「悲劇が人生を狂わす」という、まさに一国の国王が復讐鬼となると言う内容の『マクベス』のストーリーそのままような、現在まで続く数奇な人生を歩むことになってしまいました。


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ブルース・リー

この作品、1969年当時に所縁のある著名人が数多く出演します。中でも一番目立っていたのがブルース・リー。演じているのは2014年に実写化された『ストリート・ファイター』で主人公のリュウを見事に演じたマイク・モー。

1969年のブルース・リーというと、後に世界的に大ヒットするカンフー映画『ドラゴンへの道』『燃えよドラゴン』に出演する以前で、実はその頃のブルース・リーはテレビ俳優として人気がありました。それがアクションドラマシリーズ『グリーン・ホーネット※5』の日本人の運転手兼用心棒「カトー」役です。

※5…2010年に『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー監督により、地獄のようにつまらないアクションコメディの駄作としてリメイクされた。

『グリーン・ホーネット』での数々のアクションシーンから、アクション俳優として認知度を高めていたブルース・リーでしたが、実はブルース・リー自身も、テレビから映画への出演移行が上手くいっていなかった俳優の一人。60年代後半は生活を守るためもあってか、様々な映画で俳優としてではなくアクション指導を主として活躍しました。

実はこのアクション指導の存在は、現在でいう「アクション・コレオグラファー」の先駆け的な存在でもありました。映画でもサラっと触れられていますが、実はブルース・リーはシャロン・テートと友人であったのです。これは前述のアクション指導等の経緯があった為です。

さらに言うと、シャロン・テートが殺害された現場に呼ばれていた人物の一人でもありました。別の予定があったこともあり、ブルース・リーからすると九死に一生を得た出来事なのです。当然、ここで殺されていたら『ドラゴンへの道』『燃えよドラゴン』も生まれていなかったのですから。


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Spaghetti Western(マカロニ・ウエスタン)

最後に取り上げるのがこの「Spaghetti Western(スパゲッティ・ウエスタン)」。日本では「マカロニ・ウエスタン※6」という言葉で映画ファンに知られるキーワードです。

※6…「マカロニ〜」と呼ぶのは日本と韓国の2カ国だけ。これは当時日本であまりパスタが浸透していなかったのと、「パスタだと脆そうなイメージだから、少し太目の“マカロニ”にしよう」という判断から。命名したのはあの有名映画評論家の淀川長治。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の舞台となる1960年中期から後期の間、ハリウッドが映画制作を多種多様な形で難儀していた中、イタリアの映画界はそんなハリウッドの風嬢を尻目として、古来の西部劇や犯罪活劇をオマージュ…いや、ほぼパクリで大量生産し始めました。しかも主演にハリウッドで名の知れた…というかほとんどの作品で落ち目の俳優を囲って。

この「Spaghetti Western」は、低予算ながら自由な作風、そこそこな質な西部劇を作り上げるという、ハリウッドの業界人にとっては好敵手のような存在として台等し始めたのです。ハリウッドが本来作っていた西部劇と比べても、暴力描写などはかなり多め、下品といえる内容ながらご時世もあってか、世界的(アメリカ含む)に大受け。


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筆頭となるのが今でこそ名優のクリント・イーストウッドが主演した『荒野の用心棒』。黒澤明の名作『用心棒』をパク…引用※7したとしたストーリーに、ニヒルなクリント・イーストウッドの演技も相まって世界的なヒットとなるのでした。

※7…もちろん完璧主義者の黒澤明。この無断転用を見逃さずぶちギレたのだった。ちなみに内容も展開もほぼ一緒(←ここ重要)。

(アメリカと比べたら)低予算ながら大ヒットを連発するということで、ハリウッドの映画業界も戦々恐々。度々述べている通りこの頃のハリウッド映画は全然ヒットしていなかったので、ポンポンとヒットを連発するイタリア製西部劇を恐怖心と見下しを込め、ハリウッドで「Spaghetti Western」と呼ぶようになりました。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも冒頭で触れられていますが、この「Spaghetti Western」に出演をすることは“ハリウッドにはもう必要とされていない”というまごう事無き事実であるので、俳優としてのプライドをズタズタにされてしまう、言わば“死刑宣告”そのもの。

事実、これらのイタリア製西部劇に出演して、ハリウッドでスターとして復活を果たすことが出来たのは前述のクリント・イーストウッドただ1人。

この映画でディカプリオが演じている“リック・ダルトン”のモデルとされる、俳優のバート・レイノルズもイタリア製西部劇に出演した後、70年代でアクション俳優として頭角を表すも、80年代に入ると完全に失速。

その後約20年に渡り、1997年の群像劇『ブギーナイツ』に出演するまでの間、“落ち目俳優”の筆頭として名前が上がっていたほどです。他の俳優たちはもっと酷く、全員が復活も出来ずに風のように業界自体から消え去っていきました。悲しいことに。

無論これはハリウッドの業界が「Spaghetti Westernに出演したヤツは我々の映画には出さねえぜ※8」とばかりに、俳優の芸能事務所などに圧力をかけていたのが原因でもあるのですが、無論そのような事実もあり「Spaghetti Western」に出演=死ということに他なりませんでした。当然、生活の為にも仕事は続けるしかないわけですが、その決断は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の冒頭で主人公リック・ダルトンを大いに悩ませるメインテーマとなっています。

※8…ヒント:元SMAP3人のテレビ出演。

最後に「レビュー」

さて、タランティーノ9作目の映画となる今回の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。

巧みなストーリー展開と抜群の音楽センスを武器に人気監督の一人となったタランティーノでしたが、気がつけばそのキャリアは30年あまり。衰え知らずな作風は唯一無二ともいえます。

「Once upon a time」と謳ったタイトルから物語る通り、巡るめくストーリー展開の中の至るところに、タランティーノが幼少期に目撃したのだろう様々な哀愁を見出すことが出来ます。その点で言えばタランティーノの映画の中でも随一の“悲しい映画”とも言えるかも。

主人公の2人、リックとクリスは至るところで、そしてあらゆるカタチで時代の壁に直面し、その都度悲しい顔を見せます。これがまた、とてもシブくてシブくて。タランティーノらしいユーモアに溢れた場面はチラホラあるものの、映画全体を纏う重厚な雰囲気は、タランティーノの映画を歴代で比べても、おそらく最も重々しい。

また、CMなどで度々宣伝されているラストの10分が実に見事。タランティーノの映画では珍しいともいえる、ジワジワ感動系。

本当に必見です。大傑作。


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BANANA SCOOTER’Sの用心棒兼コンポーザー。元民放テレビ局AD。自称・関東イチ映画とテクノ・ミュージックを愛する男。ダイエット中。またサブカルチャーへの造詣もかなりのもんです。趣味はディスクユニオンでポンコツCDを購入すること、どうでも良いことに対しての長い作文作成。

故にそんなブログを書くと思います。

しょうもない内容の記事が多いですが、本人曰く「至って真面目」に“しょうもない記事”を書いているとのことです。

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